こんにちは、TEAM WEBRIDです。
みなさん、消防士のINSARAGってご存じですか?
今回のテーマは、INSARAGに関する情報の中でも、マーキングシステムについてレポートします。
大きな災害がおきると、海外から救助隊が海外派遣されることがあります。
そのようなニュースを見ていると、崩れた建物の壁などに、スプレーで書いた、このような落書きのようなものを見たことがありませんか?

今回は、このマーキングについて掘り下げます。
今回の記事も、現役消防士の方や消防職員OBの方々からの調査結果をもとにレポートします。
この記事を読むことで、INSARAGマーキングシステムを理解できるはずです。
- 【国際消防救助隊】そもそもINSARAGとは?
- 【国際消防救助隊】INSARAGのマーキングシステムとは?
- 【国際消防救助隊】INSARAGマーキングシステムの具体的ルールを説明する前に
- 【国際消防救助隊】INSARAGマーキングシステムの具体的ルール
- ワンポイント知識:ビクティムマーキング(Victim Marking)
- 【消防士】INSARAGマーキングシステムがまるわかりのまとめ
【国際消防救助隊】そもそもINSARAGとは?

INSARAGというのは、International Search and Rescue Advisory Groupの略称です。
直訳は、国際捜索救助諮問グループ。
何のためのグループかというと、海外で起きた大規模地震などに派遣される、国際捜索救助チームの活動にルールを設定するためのグループです。
国際捜索救助チームは、国が違うため、言語はもちろんのこと、災害対応システムも違うという課題があります。
この課題を克服するのがINSARAGです。
複数の国際捜索救助チームが異なる国から集まっても、被災地において迅速かつ調整のとれた活動を実施するためのルールです。
【国際消防救助隊】INSARAGのマーキングシステムとは?

INSARAGのマーキングシステムとは、救助チームが現場での活動結果を後続のチームに伝えるシステムです。
被災地において、各国のチームが救助活動を効率的に行うためのシステムです。
次のような情報を後続チームに伝えることができます。
このシステムにより、各チームの救助活動の重複を避けることができ、効率的な活動を可能とします。
【国際消防救助隊】INSARAGマーキングシステムの具体的ルールを説明する前に

INSARAGマーキングシステムは、1999年6月から利用がスタートしています。
今までに、複数回の改良を行っています。
過去のINSARAGマーキングを知っている人は、丸の中に線を書くスタイルの方がなじみ深いでしょう。
あれは古いシステムです、現行は、四角の中に情報を記入するスタイルです。
現行システムは2015年2月から運用されています。
現行システムを知る前に、次の3つの知識が必要です。
それぞれ説明します。
INSARAGマーキングシステムルール:ワークサイトID

ワークサイトとは、要救助者がいると判断される建物などの災害発生現場のことです。
具体的には、被災エリアをセクターごとに区切ります。
セクターA,セクターBというふうに。
セクターAのワークサイトについては、順番に「A-1」「A-2」・・・のように、ワークサイトIDを与えていきます。
これにより、各ワークサイトは固有のワークサイトIDを持つことができます。
もしも、ひとつの建物の中で、距離が離れた地点で救助活動が必要となるときは、「A-1a」、「A-1b」というように、さらに小文字のアルファベットを与えることで識別できます。
これまでは、ワークサイトの識別は、
などで行われていました。
しかし、海外から派遣されてきたチームにとっては、
などの諸課題がありました。
ワークサイトIDの付与は、これらの課題を解決するための工夫です。
INSARAGマーキングシステムルール:ASRレベル

災害により、どれぐらいの被害が出ているのかのアセスメント手法(評価方法)について、従来のアセスメント(評価)、マーキング手法では、被害がどの程度深刻なのか、どの程度救助活動が進んだのかがわかりにくいものでした。
アセスメント手法(評価方法)について、明確なルールがなかったからです。
また、各チームによって、その活動内容が必ずしも同じではなかったことも、被害がどの程度深刻なのか、どの程度救助活動が進んだのかがわかりにくい理由でした。
OWG (Operations Working Group)では、アセスメント(評価)から救助活動の完了までを、次の5レベルのASR(Assessment, Search and Rescue)レベルに分け、各チームがどのレベルの活動を行ったのかを明確にしています。
オペレーションズワーキンググループ(OWG: Operations Working Group)の略。
INSARAGガイドライン改訂に関するガイドラインレビューグループ(GRG: Guidelines Review Group)のこと。
ASRレベル<Level 1: Wide Area Assessment>
通常は被災国の機関によって、災害発生直後に実施されるものです。
被災地域全体を対象とし、車両やヘリコプター等から被災地域を目視確認によって実施します。
このレベルのアセスメント(評価)によって、
を判断します。
ASRレベル<Level 2: Sector Assessment>
担当するセクター内において、救助活動が必要とされるワークサイトを特定するために実施するものです。
次項で説明する、「Worksite Triage Form(ワークサイトトリアージフォーム)」を使用して、どのワークサイトにおいて捜索救助活動の必要があるのかを迅速に判断(トリアージ)していく救助活動です。
要救助者がいると判断される建物には、ワークサイトIDを付与します。
ASRレベル<Level 3: Rapid Search and Rescue>
一か所、もしくは少数のワークサイトを対象とした救助活動です。
重機等を用いないで数時間以内で完了できる救助活動です。
このレベル以降、後述の「Worksite Report Form(ワークサイトトリアージフォーム)」を用いて活動状況を報告します。
逆に言うと、レベル2までは「Worksite Report Form(ワークサイトトリアージフォーム)」による報告は不要です。
ASRレベル<Level 4: Full Search and Rescue>
一か所、もしくは少数のワークサイトを対象とした、レベル3の救助活動では救出できなかった要救助者を対象とした救助活動です。
重量物の撤去など、重機を用いた大規模かつ長時間の活動が必要とされる救助活動です。
ASRレベル<Level 5: Total Coverage Search and Recovery>
レスキューフェーズ(救助活動を必要とする時期)の終了が宣言された後、主にご遺体の収容活動を想定したものです。
通常は国際USAR(urban search and rescue)(都市型捜索救助) チームによっては実施されません。
ご遺体の収容活動は、本来のUSARの活動目的とは異なるからです。
INSARAGマーキングシステムルール:Worksite Triage Form(ワークサイトトリアージフォーム)

Worksite Triage Form(ワークサイトトリアージフォーム)はASR レベ2以降において使用します。
どのワークサイトにおいて、救助活動の優先度が高いのかを判断するために用いられます。
ワークサイト・トリアージとは、当該建物において
などに応じて、捜索救助活動の優先度をA からF までのカテゴリーで「トリアージ」を実施するものです。
Aの方が捜索救助活動の優先度が高く、Fに近づくにつれて低くなります。
フォームに含まれる内容は、次のとおりです。
【国際消防救助隊】INSARAGマーキングシステムの具体的ルール

では、ここまでの知識を踏まえ、現行のマーキングシステムを解説します。
具体例は次のとおり、スプレーなどで倒壊建物の壁面などに記載するものです。

こちらから読み取れる情報は次のとおり。
図の位置に何が書いてあるのかを説明すると、次の図のとおりです。

現行のマーキングシステムより古いマーキングシステムでは、
などの情報も記載していました。
しかし、現行のマーキングシステムでは、生存者数、ご遺体数、行方不明者数の記載をなくし、マーキングの下側にA からF までの建物トリアージ情報を記載します。
建物のトリアージ情報(A からF)について記載する方が効果的だという判断になり、現行のINSARAGマーキングルールからは、生存者数、ご遺体数、行方不明者数などの情報は記載しなくなりました。
このことは、
などのの情報よりも、A からF までのトリアージカテゴリーの情報の方が、その現場において、さらに救助活動が必要なのかどうかという判断に必要です。
なぜなら、最優先すべきは要救助者の救出だからです。
ワンポイント知識:ビクティムマーキング(Victim Marking)

建物に対して実施されるワークサイトマーキングが、INSARAGマーキングでした。
これとは別に、要救助者の位置を特定するためのマーキングが、ビクティムマーキングです。
INSARAGマーキング:要救助者のいる建物(ワークサイト)に対してのマーキング
ビクティムマーキング:要救助者に対してのマーキング
これは、救助活動にあたったチームが、何らかの理由によりワークサイトを離れなければならなくなったときなどに、役立ちます。
後続チームに対して、要救助者(生存者およびご遺体)の位置を伝えることを目的としたマーキングです。
ワークサイトマーキングに対する追加情報という位置付けで使用されます。
ビクティムマーキング(Victim Marking)のルール

まず、ビクティム(Victim、被災者)を示すV の文字を約50センチ四方の大きさで書きます。
必要な場合は要救助者がいると考えられる位置を示す矢印を書きます。
生存が確認されている要救助者がいる場合には、生存(LIVE)を示すLの文字を記入します。
また、その数を記入します。
死亡が確認されているご遺体については、死亡(DEAD)を示すDの文字とその数を記入します。

要救助者の救出とともに、例のようにこれらの数は更新されていきます。
例として示したビクティムマーキングは、救助活動開始時は、
・生存者 (L: Live)2
・ご遺体 (D: Dead)1体
その後、生存者2名のうち、1名が亡くなられたことに伴い、
・生存者1名
・ご遺体2体
に更新されたマーキングの例です。
このビクティムマーキングですが、2006年の改訂より以前はINSARAG ガイドラインに含まれていました。
しかし、2012年版INSARAGガイドラインには記載がありません。
現行のINSARAGガイドラインには記載がないものの、国際USAR(urban search and rescue)(都市型捜索救助)チームの中には、ビクティムマーキングを使用するチームがいます。
これは、次のような理由によるものです。
これらの理由により、ビクティムマーキングを現在でも使用しているチームがいます。
しかし、あくまでも現行のINSARAGガイドラインには記載されていませんので注意が必要です。
【消防士】INSARAGマーキングシステムがまるわかりのまとめ

今回の記事では、消防士が行う国際救助活動時のINSARAGマーキングシステムについてレポートしました。
まとめると、次のとおり。
海外の災害ニュースで、救助隊の国際派遣があった場合などは目を凝らして見てみてください。
INSARAGマーキングやビクティムマーキングを見かけるかもしれません。
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