救急安心センター事業(#7119)というのは、急な怪我や病気をしたときに、
などの判断に迷ったときの電話相談窓口です。 救急医療の専門家からアドバイスを受けることができます。#7119に相談すると、電話口で
が、病気の症状や、怪我の具合などの話を聞いてくれます。病気や怪我の状態を分析して、
を案内してくれます。今回の記事も、現役消防士の方や消防職員OBの方々からの調査結果をもとにレポートしたいと思います。
救急安心センター事業#7119:どうしてこの制度が導入されたの?
ニュースなどでも時おり耳にするため、みなさんも聞いたことがあると思いますが、救急車による救急出動件数は年々うなぎのぼりとなっています。平成の終わりでは、約661万件となっており、これは過去最多の記録となっています。10年前と比較すると、約30パーセントも増加しています。
救急件数が30パーセントも増えたのであれば、消防吏員もそれなりに増加していると思われがちですが、10年前と比較して4.4%しか増加していません。消防の救急隊は、忙しくなる一方ですね。救急件数は、今後も増えていくことが見込まれています。救急件数がどんどん増えることで、一般市民にはどのようなデメリットが発生すると思いますか?
実は、救急車の出動件数が増えることで、救急車の現場到着時間がどんどん遅くなっています。救急車の現場到着時間が遅くなるということは、緊急性の高い傷病者への、救急隊の処置が遅れることにつながります。さらに言えば、病院への到着時間も遅れ、病院で医者からの医療行為を受ける時間も遅くなるということです。
このような、全国的な救急車の到着時間の遅れを防ぐために、消防庁では、#7119の全国への導入を促進しています。地域の限られた医療資源の一つである救急車を、有効に活用するためには、#7119の利用が効果的だからです。一方で、「救急車を呼ぶと近所の目が気になる。」、「救急車を呼ぶのは気が引ける。」といった理由で、救急要請がためらわれていることもあります。
\救急車はサイレンを鳴らさずに要請できるかについてはこちらの記事で詳しく解説/
近所の目を気にするぐらいのゆとりがあるなら、救急車を呼ばずに、他の方法で病院に行ったら良いのでは?
気が引けるぐらいの余裕があるなら、自分で病院に行ったらどうかしら?
との考えも浮かんで履きますが、このような場合でも、緊急性の高い疾患が潜んでいる可能性は否定できません。#7119を活用することで、医師、看護師、相談員が専門的な知識をもったうえで判断や指示を受けることができます。潜在的な重症者を発見することにつながります。#7119は、いつでも、だれでも、必要なタイミングで、必要な医療につなぐための制度となっています。
救急安心センター事業(#7119)の 仕組み
身近なところで、急病人やけが人が発生したとき、いざとなると、「救急車を呼んだ方がよいか」、「今すぐ病院に行った方がよいか」など、判断に迷うことがあります。そのようなときに、「#7119」(又 は地域ごとに定められた電話番号)に電話することで、救急電話相談を受けることができます。
#7119に寄せられた相談は、医師、看護師、トレー ニングを受けた相談員等が電話口で傷病者の状況を聞きとります。そして、あらかじめ決められているプロトコールにしたがって、症状の緊急性や病院受診の必要性を判断します。相談内容から、緊急性が高いと判断した場合は、そのまま救急出動につなげます。
緊急性が高くないと判断した場合は、そのときに受診可能な医療機関や、受診のタイミングについてアドバイスを行います。また、「体調が悪いけど、どこの病院に行ったらいいか」といった相談に対しても、受診可能な医療機関を紹介してくれます。
救急安心センター事業#7119の導入効果って出ているの?
では、救急安心センター事業#7119の導入効果はどうでしょうか、効果のほどを3つ(A・B・C)説明します。
#7119の導入効果A:救急車を呼ぶ必要がある人に対する4つの効果
①軽症者の割合の減少
#7119が導入をされていなかったとしたら、軽症かどうかも判断できない人は不安にかられて、すぐに救急車を呼ぶことになります。そうなると、必然的に、軽症者を救急車が搬送してしまう回数が増えるのは当然です。そこで、#7119を導入していると、軽症かどうか判断できない人は、まず#7119でふるいにかけられます。ふるいにかけられ、軽症と判断された人は、救急車を呼びません。
そうなると、救急搬送される軽症者というのは減少します。結果的に、救急搬送される人の、軽症者の占める割合は減少します。東京消防庁においては、平成19年に#7119を導入してから、10%近くも軽症者の搬送数が減少しています。
②救急出動の増加抑制
#7119の導入地域の中で、救急出動件数は増加しているものの、その増加率が全国平均を大きく下回る消防本部がいくつか存在します。さらなる高齢化等を背景に、今後も救急出動件数の増加が見込まれているものの、その増加率を抑制することが期待されています。
③119番における緊急通報以外の減少
#7119の導入地域の中で、指令センターに入電する119番通報のうち、医療機関の問合せなど、緊急通報以外の入電が大幅に減少した消防本部が存在します。本来は、救急車や消防車を呼ぶための緊急回線が119番通報です。しかし、一般市民の中には、119番を利用して、そのときに受診可能な病院がどこかということを問い合わせたりといった、本来の目的とは違う利用をする人がいます。
このようなケースも、#7119の登場により、救急に関する問い合わせ先ができたことで、本来の目的に合った119番通報を優先することができます。本来の業務目的とは違う問い合わせが減ることで、指令センター職員の負担軽減も期待できます。
④救急隊の適正な出動体制の維持
管轄面積の広い消防本部においては、一旦出動すると帰署までに長時間を要します。そのため、出動している間に別の救急要請が入ると、遠方の救急隊の出動が余儀なくされます。このような消防本部においては、#7119を活用することで軽症患者への救急要請を防ぎ、遠方からの救急隊の出動を防ぐことができます。
#7119の導入効果B:医療に対する2つの効果
医療に対する効果①救急車を利用する傷病者の医療費が節約できる
すでに#7119を導入している市町村において、実績にもとづいてある試算を行いました。その試算によると、#7119への相談の結果として診療時間外での受診の抑制により、診療報酬の時間外増額が抑えられたというものです。救急車は無料だし、タクシーみたいに深夜料金もないしと、金銭的な面は気にせずに、深夜などでも軽症患者が利用することがあります。
しかし、そこには大きな落とし穴があります。実は、救急車はいつでも無料ですが、救急車が搬送する病院では、診療報酬の時間外増額が発生します。病院にとっては利益となるものの、ただの軽症患者にとっては負担増でしかありません。翌朝の診療開始時間を待ってから受診すれば必要なかった出費です。
逆も言えることがあります。#7119の利用により、早めに受診できたことによる症状悪化の予防によって、治療に必要な医療費を総額的には削減できるという効果も考えられます。
医療に対する効果②医療機関の負担軽減
#7119を導入している地域の医療機関では、診療時間外の患者の割合の減少や、電話での相談件数の減少がみられました。つまり、医療機関のスタッフの負担が軽減され、医療機関での業務に専念できるという効果が期待されます。厚生労働省が行った「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」で行われた「「いのちをまもり、医療をまもる」国民プロジェクト宣言!」においても、#7119の重要性は取り上げられています。医療従事者の負担軽減による医療の質・安全の確保と、 国民の適正な受診機会の確保のために、#7119の体制整備や利用の促進を推進しています。
#7119の導入効果C:住民に対する2つの効果
住民に対する効果①潜在的な重症者の発見(早期受診による重症化の予防)
救急要請を迷うような場面で#7119を利用することにより、潜在的な緊急性のある傷病者を発見することができます。適切に医療機関へつなげることで、重症化を予防する効果が期待されます。
住民に対する効果②安心の提供
#7119を導入している自治体が実施した利用者アンケートでは、約9割の利用者が「役に立った」と回答しています。専門的な立場からのアドバイスを受けることで、急な病気や怪我で不安を抱える住民に安心を提供する役割が期待されます。
救急安心センター事業#7119導入促進のための取組はどんなことをしているのか?
平成28年6月時点では、#7119の導入地域は7地域 (人口カバー率27.3%)でした。しかし、令和元年10月1日時点には、全国の15地域(人口カバー率は43.3%)で導入されています。全国へ着々と広がりをみせています。総務省消防庁では、
▶ ▶「救急安心センター事業(#7119)の更なる取組の推進について(通知)」
(平成28年3月31日付け消 防救第32号消防庁救急企画室長通知)
▶▶「救急安心センター事業(#7119)の全国への普及促進について」
(平成31年3月29日付け消防庁救急企画室事務連絡)を発出しています。都道府県が、管内消防本部の意向を踏まえながら、
などの関係部局と協力を行うことで、#7119の導入に向け積極的に取り組むことを促す内容となっています。また、#7119の導入を促進するため、次のような取組を行っています。
#7119導入促進のための取組①:普及促進アドバイザー制度
平成29年5月に、「救急安心センター事業(#7119) 普及促進アドバイザー制度」が創設されています。#7119の導入を検討する県や市町村に、すでに#7119を導入し、実際に運営に携わっている
を、アドバイザーとして派遣する制度です。派遣されたアドバイザーは、
を、行っています。これまでに15地域に、延べ36名のアドバイザーを派遣し、事業運営の進め方や広報についてなど、様々な課題に対する助言を行っています。
#7119導入促進のための取組②:財政措置
事業導入時のイニシャルコストに対しては、
が活用できます。また、ランニングコストに対しては、市町村に対する普通交付税として、救急安心センターを運営するために必要な人件費や事業費について措置(8,050千円/標準団体10万人の場合)が講じられています。これらの取組を活用しつつ、全国の消防本部は#7119導入に向けて検討をしています。
#7119の現在の状況やいかに
現在、全国では18の地域で実施されています。人口カバー率は47%、5,928万人です。実施地域は、県内全域で実施している12地域と県内一部で実施している6地域に分かれます。実施エリアは次のとおり。
#7119がカバーしているエリアは、規模を基準にしてみてみると、最小だと約9万人の田辺市で、最大は約1,402万人の東京都となっています。開始時期もバラバラで、最も早く開始されたのは平成19年の東京都、その後令和3年までにかけて18の地域が#7119の利用を開始しています。最も最近で令和3年に#7119を開始したのは岐阜市です。
#7119の事業効果①救急車の適正利用
1つ目の事業効果、救急車の適正利用についての効果は次のとおりです。
効果を示す具体的な事例や効果を紹介します。東京消防庁では、#7119へ相談の結果、救急搬送となり、緊急入院した都民が74,189人いました。また、緊急度が高いため、相談前に救急出動させた件数も10,310件もありました。それだけでなく、#7119から救急搬送が必要と判断され、早急な救急要請ができたことで重症化が防がれた奏功事例も発生しています。
逆に、軽症者の搬送は、減少しています。#7119の導入により、救急搬送後の初診時の傷病程度が「軽症」であった割合が減少しました。東京消防庁の場合、平成18年では、60.3%もの「軽症」割合が、#7119導入後の令和元年には54.2%まで下がりました。ド応用に、119番通報により救急出場したものの、緊急性がなく不搬送になる割合も減少しています。
救急の出動件数全体でみても、減少効果が見られます。平成18年から平成30年にかけて救急件数の増加率が、全国では26.1%の増加なものの、東京では19.1%の増加となっています。効果は東京だけではありません。管轄面積が広い地域では、1件の救急出動から帰署までに相当な時間を要します。その間、救急車が1台出動できないということになります。つまり、無駄な出動を防ぐことで、より緊急性の高い事案に効果的に出動することができます。このような効果も、#7119による効果となっています。
#7119の事業効果②救急医療機関の受診の適正化
2つ目の効果は、救急医療機関の受診の適正化が挙げられます。具体的な効果としては、医療機関における時間外受付患者数の減少効果があります。数字で表すと、#7119導入後、時間外受付者が8.1パーセント減少しました。これは札幌市のとある病院の出来事です。
また、医療機関における救急医療相談数の抑制効果があります。数字で表すと、#7119導入後、病院への相談件数が約24%減少しました。これは、神戸市のとある病院の出来事です。
次に医療費の適正化効果が挙げられます。#7119相談の結果、時間外受診をせずに済んだということで、診療報酬の時間外割増の発生を防いでくれます。それだけでなく、もちろん受診しなかったということで、受診した場合に生じていた医療費が削減できています。
#7119の事業効果③住民への安心安全の提供
3つ目の効果は、住民への安心安全の提供に役立っています。利用者の満足度で言うと、#7119の実施エリアで実施した利用者アンケートによると、約9割の利用者が「役に立った」「大変役に立った」と回答し「今後も利用しようと思う」と回答しています。
医療機関が休診時の、相談役的な役割も果たしています。その証拠に、医療機関が休診の時は#7119の入電は多くなります。曜日で言うと日曜日、次いで土曜日に多い傾向があります。
#7119の事業効果④時代の変化への的確な対応
4つ目の効果は、時代の変化への的確な対応です。#7119の普及は、人生100年時代に向けたリスクの高い高齢者の増加への対応や、地方の深刻な過疎化の対策が含まれています。また、地方は、地域の救急搬送・救急医療の担い手が不足しています、この問題にも#7119の利用促進は効果が見込まれています。
#7119の事業効果⑤新型コロナウイルス感染症対策
新型コロナウイルス感染症対策が5つ目の効果です。感染のリスクとなる不必要な外来受診や、外出の抑制による重症化防止が見込まれます。新たな感染症への対応なども含めて相談窓口となっています。
#7119はいつから?役に立つのか?【救急安心センター事業】のまとめ
救急安心センター事業(#7119)について、
などをレポートしました。また、#7119の事業効果について説明しました。
事業の導入効果を見る限り、多くのメリットがあるものの、デメリットはない事業となっています。しいて言えば、経費がかかるぐらい。全国への普及率が早い段階で100%になることを願います。
今後も、新しい情報が入り次第、レポートを更新していきます。
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