個人防火装備に係るガイドライン2017についてこの記事を読んだらわかること
消防隊員の防火服って、どんな基準で作られているの?
消防隊員のヘルメットって、工事現場で見かけるヘルメットよりやっぱり頑丈なの?
このような疑問が解決します。 今回も、現役消防士や、消防職員OBへの取材をもとに、レポートします。
個人防火装備のガイドラインが必要な意味
各消防本部では、消防士たちの安全を確保するため、防火装備について様々な対策を講じています。そのなかでも、消防隊員が着装する個人装備には特に高い安全性能が求められます。隊員の命に直結する部分なので当然ですね。
一定の安全性を確保するために、「個人防火装備のガイドライン」というものを、総務省消防庁が示しています。これは、例えば、防火ヘルメットについて、これぐらいの衝撃には耐えられるものにすべきだという安全性能の基準を示したものです。
各消防本部の装備品担当者は、隊員用の防火ヘルメットを買う時に、どのヘルメットを買うか悩みます。ヘルメットなんて、世の中にいくらでも存在するからです。また、逆に、消防隊向けのヘルメットを製造販売したい会社があったとします。
安全性能が高いヘルメットを作れば、それだけコストもかかります。安全性能が低いヘルメットを作れば、コストは安く済みます。しかし、いくら安いからといっても、安全性能が低すぎるという理由で消防本部が購入してくれなければ意味がありません。
こういう会社にとっても、一定の安全性能が示されていないと、どのような性能のヘルメットを製作したらよいか悩むわけです。一定の性能基準があれば、オーバースペックでもなく、安全性能が低すぎるわけでもなく、適切な安全性能を持ったヘルメットの制作に取りかかれます。消防本部の装備品担当者は、
ガイドラインに適合したヘルメットの中から選んで買おう!
と考えることができます。ヘルメット製造会社は、
ガイドラインに適合したヘルメットを作れば、消防本部に営業できるし、気に入れば買ってもらえるぞ !
と考えるわけです。ただ、1点注意することは、あくまでもガイドラインなので、義務ではありません。法律による強制的なものではありません。あくまでも、「参考」です。ガイドラインの安全性能に適合していれば「より良い」というものです。
したがって、令和〇〇年までには、ガイドラインに記載されているすべての装備品をガイドライン適合品に更新しないといけない、というものではありません。
現在の消防隊員用個人防火装備にかかるガイドライン
最初のガイドラインは、平成23年5月に、消防隊員の個人防火装備に必要な
などについての検討が行われました。その結果を踏まえて、総務省消防庁が、個人防火装備のガイドラインを示しました。それから6年後の平成29年(2017年)、ISO(国際標準化機構)において個人防火装備の規格が見直されました。
このことを考慮し、消防隊員の更なる安全性を確保することを目的に、消防隊員用個人防火装備に係るガイドラインの見直しに関する検討会が行われ、現在のガイドラインができています。
平成29年(2017年)のガイドライン見直し検討会の概要
ガイドラインの検討目的とガイドライン対象の装備
火災発生建物へ進入する可能性のある消防隊員を対象としています。より安全に消火活動を行うための個人防火装備に求められる機能について、一定の性能を示すことを目的として検討しています。
なお、平成29年(2017年)のガイドラインにおける対象の個人防火装備は、
としています。今まではISOで規格化されていなかった「防火フード」が新たに項目化されました。
個人防火装備に係るガイドラインの範囲
などの機能について消火活動を行う上で、隊員の安全のために必要と思われる性能を範囲としています。また、性能だけに限らず、装備品に関する注意事項も含めています。ガイドラインの範囲をまとめると、次のとおりです。
個人防火装備に係るガイドラインの基本的な考え方
平成23年の最初のガイドラインを制定するときも、ISO規格にしたがっています。当時の防火服については「ISO11613:1999」が定める規格があったため、国内の防火服もその規格に準じました。
さらには、日本独自の性能を加えたものを採用してきました。しかし、防火服以外のその他の個人防火装備にも規格を定めるべきとの考えが広がり、「ISO11999」という新規格が10項目にわたって設けられ、平成27年6月から順次利用されています。
このことから、平成29年のガイドラインにおける対象の個人防火装備については、
などを根拠として必要な性能を示しています。
個人防火装備に係るガイドライン2017:個人防火装備の性能
(1) 防火服
防火服に求められる性能
ISO規格を基礎とし、消火活動を実施する上で必要な
を定めています。防火服に求められる主な性能については次のとおりです。
見直した主な項目
濡れると水を含んで重くなり、また透湿度も低下し、消防隊員の活動に影響を与えることから、防水性能の耐吸水性試験を必要な性能として新たに取り入れました。錆(さび)などにより、緊急時に防火服を脱げなくなることを防止するため、防火服を構成するファスナーなど全ての金属類等の腐食抵抗試験も新たに取り入れました。
防火服の視認性を向上させるための高視認性素材についても、防火服と同じ耐炎性能を必要な性能として高視認性素材の耐炎性試験を取り入れました。高視認性素材とは、反射材のようなものです。
せっかく防火服に反射材が取り付けてあっても、数回の火災現場での使用だけで劣化してしまっては意味がないですから良いことです。
リストレットは、手首の保護及び炎や熱の進入を防止するために施された加工部分であり、防火服を構成する一部であることから、耐炎性能を必要な性能としてリストレット耐炎性試験を取り入れました。
(2) 防火手袋
防火手袋に求められる性能
防火手袋は、手背側、手掌側とも防火服と同様の耐炎性及び耐熱性能があり、手掌には滑り止め措置があることとなっています。防火手袋に求められる主な性能については次のとおりです。
日本の消防活動においては、ロープワークが必要不可欠なので、特に手掌側には人間工学的性能が求められています。安全性能がいくら高くても、ロープ結索がまともにできないような手袋では意味がありません。
見直した主な項目
平成23年のガイドラインでは、消防隊員の活動性を重視し、手背側と手掌側の試験基準が異なっていました。消防隊員の安全性を向上させるため、手背側と手掌側の耐炎・耐熱性能試験の基準を統一することを、必要な性能として取り入れました。
また、消火活動時に熱水が染み込むことによる、消防隊員の火傷を防ぐことを目的に、耐水性試験を必要な性能として取り入れました。具体的には、手袋のインナー素材とアウター素材の間に防水シートが挟まれる構造になりました。この防水シートのおかげで、手が濡れないため、熱水の浸み込みを防いでくれる仕組みです。
(3) 防火靴
防火靴に求められる性能等
防火靴は、踏抜き防止のため、表底と中底の間に踏抜き防止板を入れています。また、つま先には先芯を設け、重量物の落下等からつま先を保護しています。防火靴に求められる主な性能については次のとおりです。
見直した主な項目
消防隊員の転倒からの負傷を防ぐことを目的に、耐滑性試験を必要な性能として取り入れました。耐滑性とは、地面に対する滑りにくさのことです。火災現場は地面が濡れており、滑りやすい場面が多いので、より安全になりました。
(4) 防火帽
防火帽に求められる性能等
防火帽の構成は、
です。しころというのは、ヘルメットの下端から下に巻いてある布状のカバーのようなものです。首の後ろを保護したり、空気呼吸器を装着した後の顔面を守る役目があります。防火帽に求められる主な性能については次のとおりです。
見直した主な項目
平成23年のガイドラインでは、頭頂部のみの試験でしたが、消防隊員の安全性を向上させるため、4箇所(前頭部、後頭部、右側頭部、左 側頭部)の衝撃吸収性試験を追加しました。
防火帽の保持装置(あごひも)について、一定の荷重が加わった時に、防火帽から保持装置が離脱しないよう、保持装置(あごひも)強さを必要な性能として取り入れました。
(5) 防火フード
防火フードに求められる性能等
防火フードというのは、ヘルメットの下で、頭にかぶる目だし帽のようなものです。頭部と頸部の露出部を保護する繊維素材で構成されています。防火服、防火帽、フェースシールド、しころなどにより、頭部及び頸部全体を隙間なく覆う場合には、防火フードを必須とはしません。
なくても安全性は保てます。ただし、防火フードを着用することにより、消防隊員の活動における安全性は増すことから、各消防本部において購入する場合の基準を示しています。防火フードに求められる主な性能については
次のとおり。
3 個人防火装備の性能
(1) 個人防火装備の着装
正しい着装は、装備の効果を十分に発揮するために必要なものです。着装時に注意することは、各部位を保護する個人防火装備をお互いに可能な限り重ね合わせ、肌を露出させないようにする工夫です。
つまり、手首に巻いた腕時計を、火災現場で確認するなんて行為は論外ですね。せっかくの防火性能が台無しになり、手首を負傷します。また、防火服の下には、活動服や下着を着ています。
重ね着による一枚一枚の生地間に設けられる空気層は、断熱効果を上げます。断熱効果が高いということは、熱傷を受ける時間を遅らせる効果があります。
消防隊員それぞれが、このことを意識して、完全に着装することが高価な個人装備の性能を最大限に引き出すうえでも重要なことです。
(2) 活動時の熱環境と身体的負担は?
消防隊員が受ける熱的な環境は、火災現場ごとに異なります。ヒートストレスは、高温多湿の環境下で大きくなります。このストレスを下げるためには、
が有効です。また、大量発汗を伴う疲労や動作の緩慢が発生した場合は、消火活動を休止する必要があります。防火服内の換気を行い、熱風を逃がし、体温を冷却します。水分を補給することも必要です。
それでも体調が改善されない場合は、防火服を脱ぎ、体温の冷却を行いながら、医療機関を受診することが重要です。
(3) 個人防火装備の取扱い
個人防火装備のサイズは
に影響を及ぼすため、サイズを選ぶときは試着を必ず実施することが重要です。
まとめ:【解説】消防隊員用個人防火装備に係るガイドライン2017って何?
消防庁では、平成29年(2017年)の検討会報告書を踏まえ「消防隊員用個人防火装備に係るガイドライン」を改定しました。通称、「ガイドライン2017」と呼ばれています。全国の消防本部では、個人防火装備を調達する際には、このガイドラインを参考にしています。
消防隊員の安全性の向上につながる、良い仕組みです。ガイドラインの策定を思いついた人ナイスです。
今後も、新しい情報が入り次第、レポートを更新していきます。
この記事を読まれた方で、さらに詳しく知りたいことがあれば追跡調査しますので、コメントか問い合わせフォーム、またはTwitterにてご質問ください。
また、消防関係者の方で、うちの本部ではこうなってるよ、それは違うんじゃない?などのご意見をいただける際も、コメントか問い合わせフォーム、またはTwitterにてご連絡いただけると助かります。
コメント
簡潔にまとめてあって非常に分かりやすく勉強になりました。
ありがとございます。
2022年になって、新たにガイドラインが更新されましたが、ガイドライン2017と何が大きく変わったのでしょうか?
内容を見ると、旧ガイドラインでは防火服単体のみだったのが活動服の上位を着ればレベル1と同等の性能を満たす、吸水性が30%→15%に変更
等くらいしか、自分では気づかなかったのですが、今回のガイドラインでの注目点が有れば教えていただきたいです
田中 様
消防士ドットコムを運営しておりますTEAM WEBRID広報担当のジンと申します。
この度はお問い合わせいただきありがとうございます。
ガイドライン2022の変更点につきまして、記事に仕上げたいと思います。
毎週木曜日の更新としております、7月7日(木)の記事に間に合わせたいと思いますので、またご感想等いただけたら幸いです。