今回のテーマは、全国消防技術大会について。消防士のSNSなどを見ていると、『#救助大会』というハッシュタグを見たことがありませんか?救助大会と略されているものの正式名称が「全国消防救助技術大会」のことです。
大会の名前から、消防士が行う救助技術の全国大会なのかなと予測はできると思います。全国大会というだけあって、地区予選もあるのでしょうか?競い合うということは、スポーツ同様に、訓練ルールも存在するのでしょうか?
今回の記事も、いつもどおり、現役の消防士や消防職員OBの方への取材をもとにレポートします。この記事を読むことで、全国消防救助大会がどのようのものか把握でき、将来消防士を目指す人にとってはモチベーションのアップにつながることでしょう。
全国消防技術大会の概要について
✔ 主催者はだれ?
一般財団法人全国消防協会
〒102-8119 東京都千代田区麹町1-6-2 アーバンネット麹町ビル5階
TEL 03-3234-1321/FAX 03-3234-1847
E-mail ffaj@ffaj-shobo.or.jp
✔ いつ頃から始まったの?
昭和47年の東京大会から続いています。
✔ 開催地はいつも同じ?
開催地は常に変更されています。
✔ 大会が開かれる頻度は?
年に1回、夏ごろに全国大会が実施されています。
✔ 大会の目的は?
【目的①】
救助技術の高度化に必要な基本的要素を練磨することを通じて、消防救助活動に不可欠な、
を養うこと。
【目的②】
全国の消防救助隊員が一堂に会し、競い、学ぶことを通じて、他の模範となる消防救助隊員を育成し、全国市民の消防に寄せる期待に力強く応えること。
✔ 大会の目標は?
【目標①】
全国大会を通じて広く全国の市民に、消防の
をアピールする。
【目標②】
常に市民の目線に立って大会内容を研究し、全国大会を未来志向の大会とする。
全国消防救助技術大会の予選会について
全国大会という名前がついているだけあって、地区予選会もあります。全国消防救助技術大会のことを、別名として、「総合指導会」と表現することがあります。このことから、地区予選会のことを「地区指導会」と表現します。
全国で9つの支部に分かれて地区指導会が行われ、成績上位者が全国大会に出場できるようになります。9つの支部は次のとおりです。
1つの支部には、複数の都府県が含まれています。つまり、地区指導会に出場するためにも、さらに予選が必要であるということ。そのため、各県で行われているのが、消防救助技術県大会などです。さらには、消防職員数の多い消防本部になってくると、消防本部の中での予選会も開かれています。まとめると、
を経て、やっと全国消防救助技術大会に出場できるという流れです。
消防救助技術大会の訓練内容について
全国消防救助技術大会で行われる訓練は、16種目にのぼります。この16種類、現場の状況、訓練人数などにより項目がわかれています。
さらに、使用する資機材や訓練要領などを一切決めずに、出場隊員の創意工夫のもと訓練想定から救助方法までを披露する「技術訓練」があります。陸上の部と水上の部の、それぞれの訓練種目は次のとおりです。
陸上の部(8種目)
✔ はしご登はん(基礎)
自己確保の命綱を自分に結索します。その後、垂直はしごを15メートル登はんします。災害建物への進入など、消防活動には欠かせない訓練です。
✔ ロープブリッジ渡過(基礎)
水平に展張された渡過ロープ20メートル(往復40メートル)を渡過します。往路はセイラー渡過、復路はモンキー渡過。ロープ渡過の基本的な訓練です。
✔ ロープ応用登はん(連携)
登はん者と補助者が2人1組で協力して行います。資機材を使わずに、塔上から垂下されたロープを15メートル登はんする訓練です。
✔ ほふく救出(連携)
3人1組(要救助者を含む)で行います。1人が空気呼吸器を着装して長さ8メートルの煙道内を検索します。要救助者を発見し、屋外に救出した後、2人で安全地点まで搬送します。ビルや地下街などで煙に巻かれた人を救出するための訓練です。
✔ ロープブリッジ救出(連携)
4人1組(要救助者を含む)で行います。2人が水平に展張された渡過ロープ(20メートル)により対面する塔上へ進入します。要救助者を救出ロープに吊り下げて、けん引して救出します。そのあと、救助者2人も脱出します。要救助者を隣の建物等から進入し、救出することを想定した訓練です。
✔ 引揚救助(連携)
5人1組(要救助者を含む)で行います。2人が空気呼吸器を着装して搭上から塔下へ降下します。
検索後、要救助者を塔下へ搬送し、4人で協力して塔上へ救出します。そのあと、ロープ登はんにより脱出します。地下やマンホールなどの災害を想定した訓練です。
✔ 障害突破(連携)
5人1組(補助者を含む)で行います。4人が緊密な連携の下、一致協力して、
の基本動作により5つの障害を突破します。災害現場の様々な障害を想定した訓練です。
✔ 技術訓練
定められた手法、器材に縛られることなく、創意と工夫のもとでより安全で的確、迅速な訓練を発表する訓練です。共通想定をもうけ、3消防本部により実施されます。※審査対象ではありません
水上の部(8種目)
✔ 基本泳法(基礎)
「じゅんか飛び込み」で入水します。常に顔が水面に出た状態で、基本的な泳法である「ぬき手」と「平泳ぎ」でそれぞれ25メートルずつ泳ぎます。水難救助の基本的な泳法を習得するための訓練です。
✔ 複合検索(基礎)
マスク、スノーケル、フィンを着装して行います。スノーケリングで障害物(救命浮環)を突破しながら水中に沈められたリングを検索して、引き揚げます。水中の行方不明者の捜索を想定した訓練です。
✔ 溺者搬送(連携)
2人1組(要救助者を含む)で行います。救助者が「じゅんか飛び込み」で入水します。要救助者(溺者)を注視しながら近づき、チンプールで確保します。ヘアーキャリーにより救助する訓練です。
✔ 人命救助(連携)
3人1組(要救助者を含む)で行います。救助者が「二重もやい結び」のロープをたすき掛けにして要救助者の位置まで泳ぎます。要救助者をクロスチェストキャリーで確保し、補助者が救助ロープをたぐり寄せて救助します。そのあと、再び水没しつつある要救助者(訓練人形)を水面に引き揚げ、救助する訓練です。
✔ 水中検索
3人1組で行います。水中の結索環に、
のそれぞれ指定された三種類のロープ結索を行います。水中におけるロープ結索技術を習得するための訓練です。
✔ 溺者救助(連携)
3人1組(要救助者を含む)で行います。救助者と補助者の2人が協力して浮環にロープを結着します。補助者が浮環をプール内へ投下して、救助者が20メートル先の要救助者の位置まで浮環を搬送します。これに要救助者をつかまらせ、補助者がロープをたぐり寄せて救助する訓練です。
✔ 水中検索救助(連携)
4人1組で行います。第一泳者が水面を、第二泳者が水中をそれぞれ検索し、水没している要救助者(訓練人形)を発見します。要救助者を水面へ引き揚げた後、第三泳者と第四泳者が協力して対岸の救出地点まで搬送し、救助する訓練です。
✔ 技術訓練
定められた手法、器材に縛られることなく、創意と工夫のもとでより安全で的確、迅速な訓練を発表する訓練です。共通想定をもうけず、3消防本部により実施されます。※審査対象ではありません
全国消防救助技術大会の過去の実績は?
✔ 全国消防救助技術大会 過去実績一覧
開催日 | 主管都市 | 開催場所 | |
第1回 | 昭和47年(1972年)9月28日 | 東京都 | 豊島園 |
第2回 | 昭和48年(1973年)9月21日 | 大阪市 | 扇町公園 |
第3回 | 昭和49年(1974年)9月18日 | 横浜市 | 県立保土ヶ谷公園 |
第4回 | 昭和50年(1975年)9月10日 | 東京都 | 平和島公園 |
第5回 | 昭和51年(1976年)9月10日 | 名古屋市 | 白川公園/瑞穂プール |
第6回 | 昭和52年(1977年)8月18日 | 横浜市 | 市消防訓練センター |
第7回 | 昭和53年(1978年)8月22日 | 千葉市 | 県消防学校 |
第8回 | 昭和54年(1979年)8月24日 | 大阪市 | 市消防学校 |
第9回 | 昭和55年(1980年)8月29日 | 名古屋市 | 白川公園/瑞穂プール |
第10回 | 昭和56年(1981年)8月19日 | 横浜市 | 市消防訓練センター |
第11回 | 昭和57年(1982年)8月19日 | 横浜市 | 市消防訓練センター |
第12回 | 昭和58年(1983年)8月19日 | 大阪市 | 大阪城公園/市消防学校 |
第13回 | 昭和59年(1984年)8月24日 | 名古屋市 | 白川公園/瑞穂プール |
第14回 | 昭和60年(1985年)8月22日 | 広島市 | 中央公園/県立屋内プール |
第15回 | 昭和61年(1986年)8月22日 | 神戸市 | 市民防災総合センター/神戸市王子プール |
第16回 | 昭和62年(1987年)8月21日 | 千葉市 | 県消防学校 |
第17回 | 昭和63年(1988年)8月19日 | 横浜市 | 市消防訓練センター |
第18回 | 平成元年(1989年)8月25日 | 名古屋市 | 白川公園/瑞穂プール |
第19回 | 平成2年(1990年)8月24日 | 広島市 | 中央公園/ファミリープール |
第20回 | 平成3年(1991年)8月28日 | 大阪市 | 市消防学校 |
第21回 | 平成4年(1992年)8月28日 | 千葉市 | 県消防学校 |
第22回 | 平成5年(1993年)8月20日 | 福岡市 | 市図書館建設用/県立総合プール |
第23回 | 平成6年(1994年)8月25日 | 京都市 | 市消防学校 |
第24回 | 平成7年(1995年)8月25日 | 北九州市 | 北九州市文化記念公園 |
第25回 | 平成8年(1996年)8月23日 | 札幌市 | 市消防訓練場/平岸プール |
第26回 | 平成9年(1997年)8月22日 | 千葉市 | 県消防学校 |
第27回 | 平成10年(1998年)8月28日 | 大阪市 | 市消防学校 |
第28回 | 平成11年(1999年)8月19日 | 横浜市 | 市消防訓練センター |
第29回 | 平成12年(2000年)8月18日 | 熊本市 | 熊本市総合屋内プール(アクアドームくまもと) |
第30回 | 平成13年(2001年)8月8日 | 東京都 | 東京消防庁豊洲訓練場/東京辰巳国際水泳場 |
第31回 | 平成14年(2002年)8月23日 | 名古屋市 | 市消防学校 |
第32回 | 平成15年(2003年)8月28日 | 仙台市 | 仙台市泉総合運動場グラウンド/プール |
第33回 | 平成16年(2004年)8月26日 | 神戸市 | 兵庫県消防学校 |
第34回 | 平成17年(2005年)8月25日 | さいたま市 | 岩槻文化公園/県営大宮公園水泳場 |
第35回 | 平成18年(2006年)8月24日 | 札幌市 | 市消防学校/平岸プール |
第36回 | 平成19年(2007年)8月22日 | 東京都 | 東京消防庁夢の島訓練場/東京辰巳国際水泳場 |
第37回 | 平成20年(2008年)8月29日 | 北九州市 | 勝山公園/勝山市民プール |
第38回 | 平成21年(2009年)8月20日 | 横浜市 | 市消防訓練センター |
第39回 | 平成22年(2010年)8月27日 | 京都市 | 京都市消防活動総合センター |
第40回 | 平成23年(2011年)8月 | さいたま市 | 東日本大震災の影響により中止 |
第41回 | 平成24年(2012年)8月7日 | 東京都 | ゆりかもめ新豊洲駅前特設会場/東京辰巳国際水泳場 |
第42回 | 平成25年(2013年)8月22日 | 広島市 | 旧広島市民球場跡地/広島市総合屋内プール |
第43回 | 平成26年(2014年)8月27日 | 千葉市 | 広島市の大雨による土砂災害を考慮し中止 |
第44回 | 平成27年(2015年)8月29日 | 神戸市 | 神戸学院大学ポートアイランドキャンパス 神戸市立ポートアイランドスポーツセンター |
第45回 | 平成28年(2016年)8月24日 | 松山市 | 松山中央公園 運動広場/アクアパレットまつやま |
第46回 | 平成29年(2017年)8月23日 | 仙台市 | 宮城県総合運動公園 グランディ・21 |
第47回 | 平成30年(2018年)8月24日 | 京都市 | 台風接近を考慮し中止 |
第48回 | 令和元年(2019年)8月25日 | 岡山市 | 岡山市消防教育訓練センター |
第49回 | 令和2年(2020年)10月24日 | 北九州市 | 新型コロナウイルス感染症の感染防止のため延期 |
第50回 | 令和4年8月26日(金) | 東京都 | 立川立飛特設会場/東京消防庁第八消防方面訓練場水難訓練施設屋内プール |
第51回 | 令和5年4月18日(火) | 札幌市 | 札幌市消防学校/札幌市平岸プール |
第52回 | 令和6年8月23日(金) | 千葉県 | 千葉県市消防学校/千葉県習志野市 |
消防職員の中での評判は?
ここまで全国消防救助技術大会について説明してきました。救助技術を磨いたり、職員の訓練に対するモチベーションをあげたりと、もってこいの制度のように見えます。しかし、消防職員の中では、このイベントに対して、否定的な意見が存在します。その理由は大きく分けて2つ。それぞれ説明します。
理由①現場活動の変化
まずひとつ目としては、種目として挙がっている救助技術が実際の現場で使われるものではないということ。消防士は、管轄市民のために働いており、仕事の成果は管轄市民に還元する必要があります。
なぜなら、消防士の給料は市民の税金で支払われているから。多くの時間や労力を費やすものであればなおさらです。しかし、その多くの時間や労力を費やす訓練が市民に還元されません。多くの消防士に、
「消防救助技術大会の種目になっている救助法を現場で使ったことがあるか?」
と尋ねたならば、ほとんどの消防士が
「ノー」
と答えるでしょう。救助資機材が進化した現代では、どの手法も古く、時代に合いません。もちろん、基礎的な救助技術の訓練にはなっていると言えばそうかもしれません。それにしては、役に立たない部分の占める訓練にかかる時間のウェイトが高すぎます。基礎技術の訓練のみを行う方が効率的です。
近年の救助現場では、「都市型ロープレスキュー」という救助法が主流になりつつあることも、影響しています。このようなことを背景に、否定的な意見を持つ消防職員が多く存在しています。
\ロープレスキューについて詳しくはこちらの記事/
理由②業務への悪影響
2つ目は、特に小規模な消防本部にみられる傾向です。何かというと、消防救助技術大会にかける業務のウェイトが大きすぎるというもの。小規模な消防本部というのは、政令市や中核市に満たないような、かつ、田舎で管轄人口の少ない消防本部をさしています。
政令市や中核市になってくると、それなりの業務量があるため忙しく、消防救助技術大会への訓練期間を限定したりしています。もちろん個人が、休憩時間などに個人練習をすることは自由です。中核市に満たなくても、管内人口がそれなりにあれば、その他の業務が忙しく、消防技術訓練大会にむけての訓練ばかりやっている場合ではありません。
しかし、地方の田舎などで管轄人口も少なければ、話が変わってきます。出動も少なく、現場の消防職員は、はっきり言って暇なわけです。ではいろいろな訓練ができるねとプラスにとらえたいところですが、前例にとらわれ消防救助技術訓練の練習を1年中行います。
これは、若手職員にとってはストレスです。他の訓練をやりたいのにできない。現場で役に立つならまだしも、現場で役に立たない訓練ばかり年中させられる。悪しき風習とはこのようなことですね。このようなことを背景に、否定的な意見を持つ消防職員が一定数存在します。
消防士の救助大会|消防救助技術大会|いらない?廃止?のまとめ
消防士が救助技術を競い合う大会である『全国消防救助技術大会』について、レポートしました。まとめると次のとおり。
一部では否定的な意見があるものの、ないよりはある方が、多くの消防士にとって救助技術の習得のために努力や勉強を行うための起爆剤になっています。これから消防士を目指そうとする若者に対しても、好印象なイベントであることは否定できません。
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