消防防災ヘリコプターの安全対策が知りたいです!
こんにちは、TEAM WEBRIDです。
この記事では、消防防災ヘリコプターに搭乗するパイロットや消防士たちの安全対策について、過去の事故事例を踏まえて紹介します。
今回の記事も、現役消防士の方や消防職員OBの方々からの調査結果をもとにレポートします。
この記事を読むことで、消防防災ヘリに起きた過去の事故や、事故を踏まえてどのような安全対策の改善が進められてきたのかがわかるはずです。
消防防災ヘリコプターの墜落事故の概要
平成21年以降、4件の消防防災ヘリコプターの墜落事故が相次いで発生しています。
4件合わせて、26人の消防職員や操縦士が殉職するという、悲惨な状況となっています。
4件の墜落事故については、一人操縦士体制で運航していたことが大きく問題視されています。
事故原因の検証と、解決策の実施はもちろんですが、日常の安全対策についても改善の余地があります。
日常の安全対策を確実に実施することで、消防防災ヘリコプターの運航の安全性を上げることが急務です。
4つの事故事例を紹介します。
事故事例①岐阜県及び事故事例②埼玉県防災ヘリコプター墜落事故
平成21年9月、岐阜県の北アルプスで救助活動中の岐阜県防災ヘリコプターが墜落し、搭乗していた3人が死亡する事故が発生しました。
また、平成22年7月には、埼玉県秩父市の山中で救助活動中の埼玉県防災ヘリコプターが墜落し、搭乗していた5人が死亡する事故が発生しました。
いずれも、標高1,000メートルを超える山岳地帯において、ホバリング中に機体の一部を岩壁又は樹木に接触させたことが原因でした。
事故事例③群馬県防災ヘリコプター墜落事故
群馬県防災ヘリコプターは、平成30年8月10 日9時13分に群馬ヘリポートを離陸しました。
しかし、10 時45分の着陸予定時刻を過ぎてもヘリポートに着陸しませんでした。
12 時24分に、群馬県から総務省消防庁に対して、群馬県防災ヘリコプターが行方不明になっている旨の連絡がありました。
12 時57分には、総務省消防庁長官から
に対して、広域航空消防応援による出動要請を行いました。
出動要請を受け、各都県の消防防災航空隊が群馬県に向けて出動しました。
14 時30分に、埼玉県防災航空隊が、機体の一部を群馬県吾妻郡中之条町横手山付近で発見し、同機の墜落が確認されました。
その後、消防、警察、自衛隊等の関係機関による捜索活動が行われましたが、搭乗していた9人全員の死亡が確認されたものです。
群馬県防災ヘリコプターは、「ぐんま県境稜線トレイル」の全面開通に伴う山岳遭難の発生に備え、危険な地形を把握することを目的として飛行していました。
当日の気象は、晴れのち曇り、南の風1メートルです。
国土交通省運輸安全委員会において、事故原因等を調査中です。
事故事例④長野県消防防災ヘリコプター墜落事故
長野県消防防災ヘリコプターは平成29年3月5日13 時33分に松本空港を離陸しました。
訓練予定の場所へ向けての飛行でした。
長野県消防防災ヘリコプターから、予定時刻になっても着陸連絡がありませんでした。
15時12分、長野県警のヘリコプターが、機体の一部を長野県鉢伏山付近(松本市と岡谷市の境界付近)で発見し、墜落が確認されました。
その後の関係機関による捜索活動の結果、搭乗していた9人全員の死亡が確認されました。
当日の気象は良好であり、北の風2メートルのち北西から北東の風2メートル、視程10 キロメートル以上でした。
国土交通省運輸安全委員会は、平成30年10月25日に事故調査報告書を公表しました。
原因は次のとおり。
「山地を飛行中、地上に接近しても回避操作が行われなかったため、樹木に衝突し墜落したものと推定される。同機が地上に接近しても回避操作が行われなかったことについては、機長の覚醒水準が低下した状態となっていたことにより危険な状況を認識できなかったことによる可能性が考えられるが、実際にそのような状態に陥っていたかどうかは明らかにすることができなかった。」
“事故報告書から引用”
とされました。
運航の安全性の向上に向けた消防庁の取り組み(検討会)
止まらない消防防災ヘリコプターの墜落事故を受け、総務省消防庁では
に向けた調査研究を行いました。
その研究成果を、消防防災ヘリコプターを運航するそれぞれの組織に助言しました。
「消防防災ヘリコプターによる山岳救助のあり方に関する検討会」(事故事例①岐阜県及び事故事例②埼玉県防災ヘリコプターの墜落事故を受けた対応)
平成21年の岐阜県防災ヘリコプター、平成22年の埼玉県防災ヘリコプターの墜落事故が続いたことを受け、平成22年から24年にかけて、消防庁において「消防防災ヘリコプターによる山岳救助のあり方に関する検討会」が設置されました。
山岳地帯での
などについて検討が行われました。
検討会報告書において、次のような基本的な考え方が示されました。
「事故の要因となる物的、人的、環境的、組織的危険要因を一つ一つ排除することにより、事故の発生確率は低下して事故の防止に繋がる。何か一つを改善することで事故が直ちになくなるのではなく、小さな事故が発生したときには見逃すことなく、徹底した再発防止策の検討と改善を継続しなければならない。」
”消防防災ヘリコプターによる山岳救助のあり方に関する検討会報告書”より引用
- ボイス・プロシージャー*1(発唱手順)において、死角部分の見張りに関する規定を整備し、確実に見張りを行うように努めること
- 山岳救助訓練について再点検を行うこと
- 機長は運航管理者の判断を尊重することなどにより冷静に状況を判断すること
などが提言されました。
総務省消防庁は、消防組織法第37 条の規定に基づく助言として、
「消防防災ヘリコプターによる山岳救助のあり方に関する検討会報告書について」
(平成24年5月29 日付け消防広第17 号消防庁国民保護・防災部防災課広域応援室長通知)
により、消防防災ヘリの各運航団体に対して要請しました。
「消防防災ヘリコプターの安全性向上・充実強化に関する検討会」(事故事例③長野県消防防災ヘリコプターの墜落事故を受けた対応)
長野県消防防災ヘリコプターの墜落事故を受け、総務省消防庁は、平成29年8月に「消防防災ヘリコプターの安全性向上・充実強化に関する検討会」を設置しました。
検討会の目的は、ヘリコプターの安全性向上策・充実確保策を推進することです。
同検討会では、
について検討されました。
安全性向上策として、
- CRM(クルー・リソース・マネジメント)の導入による部隊内における意思疎通やチームワーク向上
- 操縦桿を握る機長に生じる不測の事態への備え
は何よりも優先されるとして、二人操縦士体制の導入が検討されました。
また、航空消防防災体制の充実強化において、1機体制の県における消防庁ヘリコプターの増配備を含めた2機目の機体の増配備については、各地域の実情に応じて議論を進めていく必要があるとしました。
同検討会の報告書を取りまとめた後、消防庁は、消防組織法第37 条の規定に基づく助言として、
「消防防災ヘリコプターの安全性向上・充実強化に関する検討会報告書について」
(平成30 年3月30 日付け消防広第150 号消防庁広域応援室長通知)
により、各運航団体に対して安全運航の再徹底を要請しました。
「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準の在り方に関する検討会」(事故事例④群馬県防災ヘリコプターの墜落事故を受けた対応)
平成29年度検討会報告書の提言事項について各運航団体が取組を進めていたところ、平成30 年8月10日に群馬県防災ヘリコプターの墜落事故が発生しました。
事故原因は国土交通省運輸安全委員会が調査中ですが、消防防災ヘリコプターの安全運航を徹底するためには、平成30年度検討会報告書の提言事項を各運航団体が確実に実施していくことが基本です。
こうした経緯を踏まえて、これまで以上に運航団体が安全性の向上に着実に取り組むためには、提言事項等を運航に関する基準として取りまとめ、助言より高い規範力を持つ形式で示すことが重要であると考えるようになりました。
そこで「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準の在り方に関する検討会」を設置し、基準に盛り込むべき事項とその内容等について検討することとしました。
そこで完成したのが、次で説明する基準です。
「消防防災ヘリコプターの運行に関する基準」の制定
今までの事故を受けて、平成31年3月及び令和元年6月に「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準の在り方に関する検討会」が開催されました。
総務省消防庁は、検討会の結果を踏まえて、消防防災ヘリの運航団体が取り組む項目をとりまとめました。
それが、「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準」(令和元年消防庁告示第4号)です。
「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準」は、令和元年9月24日に消防組織法第37条に基づく消防庁長官の勧告として告示しました。
同基準の内容は、運用の細かい部分にまでふれているため、
「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準の制定について」
(令和元年10 月1日付け消防広第138 号消防庁長官通知)
を発出し、制定の趣旨及び留意事項について助言しました。
「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準」の内容と留意事項
用語の意義
についての意義を規定しています。
運航体制の整備充実
運航団体は、消防防災ヘリコプターの運航の安全の確保のために必要な、
を図るものとしています。
運航規程等の整備
運航団体においては、次のような運航規程を整備することとしました。
これらの規程を定めるよう規定するとともに、
についての活動要領も定めることと規定しました。
消防防災ヘリコプターの安全運航のためには、部隊内における意思疎通やチームワーク向上が必要不可欠です。
そのため、
- CRM を積極的に取り入れること
- 見張り要員の配置
- ボイス・プロシージャーを実施要領に定めること
- 山岳救助、水難救助その他の特に安全の確保に配慮する必要があると認める航空消防活動の類型ごとに、活動要領を定めること
についても規定しました。
運航責任者及び運航安全管理者の配置
消防防災ヘリコプターが配置されている拠点に、
を配置することとしました。
それぞれの任務や事務については次のとおりです。
運行責任者
運航責任者については、管理監督業務をつかさどる航空隊基地の所長やセンター長を想定しています。
さらに、消防防災ヘリコプターが配置されている拠点に配置することとし、
を担当します。
運行安全管理者
運航安全管理者は、
ことを担当とします。
運行責任者と運行安全管理者は同じ人でもいいの?
運航責任者と運航安全管理者の担当事務はそれぞれ別に定められています。
また、運航安全管理者については、運航責任者への助言を行います。
つまり、運航責任者と運航安全管理者には、それぞれ別の者を配置する必要があります。
二人操縦士体制
航空消防活動を行う消防防災ヘリコプターには、
の合計、操縦士2名を乗り組ませることを指定しました。
副操縦士は、機長に事故が起きた場合には、機長に代わってその職務を行う必要があります。
ここでいう操縦士の定義は、航空法第28 条の規定により当該消防防災ヘリコプターを操縦することができる航空従事者(定期運送用操縦士又は事業用操縦士の資格についての技能証明を有する者に限る。)としました。
機長及び副操縦士の乗務要件
消防防災ヘリを運営する組織は、航空法などのルール以外に、その消防防災ヘリコプターの機長に必要なルールを定めました。
例えば、
など、操縦士の操縦技能に応じたルールです。
航空消防活動指揮者
運航責任者は、航空消防活動の実施に当たっては、航空消防活動指揮者を指定することとしました。
もちろん航空法などにより機長が行うこととされている権限は除きます。
消防防災ヘリの隊員への指揮監督を任務としていることから、航空消防活動における救助隊長(小隊長)が担当します。
航空消防活動現場における活動の指揮を執ることが任務です。
消防防災ヘリコプターに備える装備等
運航の安全確保のため、消防防災ヘリコプターに
について決めました。
教育訓練等
将来にわたり、操縦士を安定的に確保することが重要です。
そのため、
などの計画をたてます。
消防防災ヘリコプターは、その業務の特殊性から高度な技術が要求されます。
経験の浅い操縦士が即戦力となることはありません。
飛行時間を積み重ねていくだけでなく、航空消防防災業務に特化した訓練により、任務に対応できる技術を身につけることが必要です。
航空消防活動
航空消防活動が安全に行えるように、運航団体の管轄外であっても、相互応援協定を締結している地域は、
などについて調査を行います。
管轄外だとしても、相互応援協定により出動する可能性があるので、調査を行うことは安全な運航につながるということですね。
また、出発前の安全対策として、消防防災ヘリコプターの出発に当たっては、運航責任者の承認を必要としました。
を可能な限り詳細に把握することで、承認が出ます。
出発前においてできる安全対策です。
また、運航中の安全対策としては、機長及び航空消防活動指揮者は、運航中、安全管理に十分配慮し、必要に応じて航空消防活動を中止する判断を行えます。
運航責任者についても、
などから航空消防活動を安全に実施することが困難と判断した場合、機長及び航空消防活動指揮者に対し、航空消防活動を中止するよう指示できます。
つまり、
の3者が誰でも、航空消防活動の中止の判断を行うことができます。
航空機事故対策
消防防災ヘリコプターに係る事故(航空法第76条第1項各号に掲げる事故に限る)が発生した場合等には、速やかに捜索及び救助の体制を確立し、その旨を消防庁長官に報告します。
また、事故が発生するおそれがある場合も、その旨を消防庁長官に報告します。
この規定により、総務省消防庁で情報を一元的に集約でき、各運航団体との情報共有がスムーズになります。
相互応援協定等
運航団体は、
ように努めます。
これは、耐空検査等により航空消防防災体制に空白を生じさせないことを目的としています。
耐空検査というのは、自動車でいうところの車検みたいなものです、耐空検査中は、出動ができません。
施行期日
令和元年10 月1日から施行していますが、
については、それぞれを実現するために必要な猶予期間があります。
即座に対応することが現実的ではないから、猶予期間を設けています。
それが次の3つです。
運航安全管理者の配置
令和3年4月1日。
CRM の策定、二人操縦士体制、機長及び副操縦士の乗務要件及びCRM に関する訓練
令和4年4月1日。
2人操縦士体制
安全運航の確保のための最も重要視すべきポイントとなります。
そのため、令和4年4月1日を施行日としていますが、特別ルールを設けています。
特別ルールとは、操縦士の確保や養成の状況により、操縦士2名を消防防災ヘリコプターに乗り組ませることが困難な場合、1名が型式限定資格取得訓練中であっても、事業用操縦士資格取得者である場合は、副操縦士の代わりに乗務することができるというもの。
わかりにくいですよね、簡単に言うと、一人で操縦するよりは、二人目の操縦士が半人前でも二人いた方が安全だということ。
ただ、この特別ルールは、令和7年3月末までです。
それまでには、一人前の二人目の操縦士を確保する必要があります。
もちろん、施行日を待つ必要はなく、実施可能なものから随時実施すべきです。
【令和4年2月追記】消防防災ヘリコプターの安全性の向上と航空消防防災体制の強化
「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準」(令和元年消防庁告示第4号)に定める二人操縦士体制が令和4年4月から施行されます。
このことに伴い、操縦士資格を持つ運航要員を常時2人確保するための経費について、総務省消防庁が地方交付税措置を講ずることとしています。
簡単に言うと、国がお金で消防本部を援助するということです。
また、
などについても、令和4年度から地方交付税措置を拡充することとしています。
これらを踏まえ、ヘリを運行する消防本部や県の防災隊は、安全性の向上をはじめとした運航体制の充実強化に取り組んでいきます。
【消防ヘリの落下事故】消防士やパイロットの命を守れ!【安全対策】まとめ
消防防災ヘリコプターに関する事故は、残念なことに定期的に起きてしまっている事実がよくわかってしまいました。
事故が起きるたびに多くの対策を行っているものの事故が止まりません。
消防防災ヘリコプターの安全運航を最優先に考え、「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準」に見合った運用に全国の消防防災ヘリ組織がなることを願います。
今後も、新しい情報が入り次第、レポートを更新していきます。
この記事を読まれた方で、さらに詳しく知りたいことがあれば追跡調査しますので、コメントか問い合わせフォーム、またはTwitterにてご質問ください。
また、消防関係者の方で、うちの本部ではこうなってるよ、それは違うんじゃない?などのご意見をいただける際も、コメントか問い合わせフォーム、またはTwitterにてご連絡いただけると助かります。
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