こんにちは、TEAM WEBRIDです。今回は、CBRNEをテーマにレポートします。みなさんは、CBRNEって何か知っていますか?NBCといった方がなじみ深い人も多いと思います。CBRNE,NBCのどちらとも単語の頭文字を並べたワードになります。
CBRNEとは、これらを原因として発生した災害に対して、CBRNE災害と表現します。以前は、NBC災害と表現していましたが、近年では、NBCだけでなくRとEによる災害も含め、CBRNE災害と表現することが一般的になっています。
今回の記事も、現役消防士や、消防職員OBへの取材をもとにレポートします。この記事を読むことで、CBRNE災害に関しての知識が身につきます。これから消防士を目指す人にとっては、消防士採用試験での面接試験や小論文試験において、良い回答のための参考になるかもしれません。それではレポートします。
- 【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:CBRNE災害それぞれの災害種別を理解しよう
- 【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:NBC災害からCBRNE災害へナゼ変化する必要があったのか?
- 【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:NBC災害とCBRNE災害の違いの詳細を詳しく解説
- 【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:C/B/R/N/Eは単独で起こる災害というわけではない
- 【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:消防のCBRNE災害への対応は?
- 【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:CBRNE災害への対応として3つのゾーン体制を維持するためにはゲート・コントロールが重要になってくる
- 【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:デコン(除染)を行ったからといってもコールドゾーンへ移動できない場合がある
- 【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:被災者の数が多い場合は除染後トリアージも行う
- 【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:消防のCBRNE災害への対応部隊
- 【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:化学防護服の種別について
- 【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:CBRNE災害への備えとして一般市民に必要なこと
- CBRNE災害|NBC災害との違いとゾーニングマニュアルのまとめ
【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:CBRNE災害それぞれの災害種別を理解しよう
まずは、CBRNEそれぞれの災害種別を深堀します。
CBRNE災害それぞれの災害種別を理解しよう:C:化学 (Chemical)
人体に害のある化学物質が原因となる災害です。化学工場の事故による化学物質の漏洩や、化学物質を利用した化学兵器によるテロなども含みます。化学兵器は、次のようなものが代表的です。
サリンはオウム真理教によって使用されたことでも有名です。どの化学兵器も、人体に有害な影響を与える化学物質を含んだものです。弾道ミサイルに搭載される危険性もあります。
CBRNE災害それぞれの災害種別を理解しよう:B:生物 (Biological)
病原体や生物兵器による災害です。生物兵器は、次のような被害を狙った兵器です。
生物兵器は、かなり昔から利用されてきました。例えば、感染力の高い病気にかかった者や、その病気により亡くなった者の遺体を、攻撃したい場所に放置するという行為も、一種の生物兵器攻撃と言えます。生物兵器としては、次のようなものが有名です。
炭疽菌テロは2001年の米国同時多発テロ直後に、アメリカで頻繁に発生したことで有名です。生物兵器は、核兵器や化学兵器と違い、弾道ミサイルに搭載される可能性は低くなっています。というのも、生物兵器に使われる細菌やウィルスが、弾道ミサイルの爆発時の熱で死滅すると考えられるためです。
CBRNE災害それぞれの災害種別を理解しよう:R:放射性物質 (Radiological)
日本ではなじみ深いですね、そうです、東日本大震災で被災した福島原発による被害がまさしく放射性物質による災害です。海外では、チェルノブイリの原子力発電所事故も有名です。原子力発電に頼っている限り、常に危険性と隣り合わせです。放射能兵器(ダーティー・ボム)による災害などが想定されています
CBRNE災害それぞれの災害種別を理解しよう:N:核 (Nuclear)
核兵器を用いた核爆発による災害です。具体的には、核爆発を伴う原子爆弾や水素爆弾などによる災害を意味しています。放射性物質のRと同じく、日本ではなじみ深いものです。広島や長崎への原子爆弾による被害では、今もなお放射線による後遺症の残る人たちがいます。
CBRNE災害それぞれの災害種別を理解しよう:E:爆発物 (Explosive)
爆発物による災害です。テロの場合は、人間の体に巻き付けた爆弾により、自殺テロが有名です。火薬に起因したものが多くみられます。爆発による、火傷や爆風による被害だけとは限りません。悪質な場合、爆発物の中に鉄くぎなどの鋭利な小物を仕込ませておくことで、殺傷能力を高めた爆弾も存在します。
【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:NBC災害からCBRNE災害へナゼ変化する必要があったのか?
CBRNE災害とは先ほど説明したように、[化学:Chemical]、[ 生物:Biological]、[ 放射性物質:Radiological]、[ 核:Nuclear]、[ 爆発物:Explosive]を指す頭字語です。「CBRNE災害」は、「NBC災害」の核(N)から放射性物質(R)を分離させ、更に爆発物(E)を新たに加えたものということです。「NBC災害」と重複するものが多い点に気づくかと思いますが、何故「NBC災害」に加え「CBRNE災害」という概念が生まれたのでしょうか。
「NBC災害」という表現は、一説には、冷戦期(1947年から1991年)に、国家が保有する大量破壊兵器の種類に合わせて作られたと言われています。大量破壊兵器の中でイメージしやすいのはミサイルでしょうか。
ということです。
次に,「CBRNE災害」という表現は、一説には、テロ行為の種類に合わせて作られたと言われています。というのも、冷戦の終わりごろ(1990年代)から、世界の中でテロ行為が頻発しました。テロ行為とは、国ではない団体が無差別に暴力行為を行うことです。テロ行為の増加と多様化により、「CBRNE災害」のリスクが身近となったことが影響しています。「CBRNE災害」は、テロ対策に関する表現として使用されることが多いため、テロの増加により、「NBC災害」よりも「CBRNE災害」の方が一般的になりつつあるようです。
つまり、人間にとっての脅威が、戦争ミサイルからテロ行為に変化したことに合わせて、「NBC災害」から「CBRNE災害」へと変化したということになります。
【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:NBC災害とCBRNE災害の違いの詳細を詳しく解説
NBC災害とCBRNE災害の違いを説明します。2文字増えていますよね。RとEが増えています。
それぞれ説明します。
NBC災害とCBRNE災害の違いの詳細を詳しく解説:R:放射性物質
Rは放射性物質です。ちょっと待ってください、NBC災害にも同じようなのかありますよね。そうです、NBCのN(核)です。放射性物質と核って似ていますよね、何が違うのでしょうか。ひとことで言うと次のとおり。
・放射性物質(R):放射性物質による被害
・核(N):核爆発による被害
放射性物質の被害とは、核爆発を伴わない原発事故などをさしています。記憶に新しい、東日本大震災により被災した福島原発をイメージしてもらえたらわかりやすいと思います。核爆発による被害とは、核爆弾(核兵器)のことをさしています。広島や長崎に落とされたアレです。小学生の頃に図書室で一度は目にするでしょう「はだしのゲン」の世界をイメージしてもらえたらわかりやすいと思います。
放射性物質と核の2つは確かに似ているものの、被害の状況というのはまったくの別物だということがわかると思います。それぞれ、似てはいるものの、発生する被害の特徴が違いますよね。
核災害の定義が「NBC」から「CBRNE」へと拡大・整理されたのは、人間にとっての脅威が、戦争兵器(具体的にはミサイル)から、テロ行為へ変化したからだと先ほど述べました。福島原発の場合は、地震により発生した津波が原因で放射性物質による被害が発生しました。では、テロ行為による放射性被害とはどんなことでしょうか?それは、原子力発電所へのテロ攻撃による放射性物質の被害が想定されています。
このように、核爆発(核ミサイル)による被害と、放射性物質による被害では、消防の対応が異なるため、N(核)とR(放射性物質)は分ける必要が生じたのです。
NBC災害とCBRNE災害の違いの詳細を詳しく解説:E:爆発物
爆発物(E)によるテロ行為には、「CBRNE災害」の中でも次のような特徴があります。
・爆発物の生産が簡単
・攻撃の実施が簡単
・現実的に頻発している
爆発物は生産が簡単なうえに、殺傷能力を高める工夫も簡単です。具体的には、爆発物の中に釘やボルトを混ぜるだけです。熱や爆風による被害に加え、鋭利な金属が爆発の勢いで周辺に飛び散ると思うとひどいものです。
また、記憶に新しい爆発物によるテロ行為は次のとおり。
・ボストンのマラソン会場爆破事件
・イギリスのマンチェスターで行われたコンサートの会場で爆破テロ事件
爆発物の生産は、高校生程度の知識と技術があれば既製品を組み合わせることで爆発物を製造できるといわれています。このような多くの理由から、E(爆発物)による被害が加えられたのです。
【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:C/B/R/N/Eは単独で起こる災害というわけではない
「CBRNE災害」と呼称しているものの、それぞれが必ずしも独立して起こる被害というわけではありません。複数の被害が同時に起こることも考えられます。例えば、原子力発電所が爆破テロを受け、放射性物質が外部に放出された場合は、放射性物質(R)と爆発物(E)による被害となります。化学薬品工場が爆破テロを受け、人体に有毒な化学物質が外部に放出された場合は、化学物質(C)と爆発物(E)による被害となります。消防側としては、複数の危険要因への対応を求められるため、非常に困難な現場活動になります。
【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:消防のCBRNE災害への対応は?
では消防は、このような危険な現場でどういった活動を行うのでしょうか。有毒物質などへの対応として基本となる消防戦術は、ゾーニングです。ゾーニングとは、ZONE(区域)を意味しており、災害現場を3段階の区域に分けることから始まります。3つの区域とは、次のとおり。
どうして、3つの区域に分ける必要があるのでしょうか。それぞれのゾーンの定義と、活動目的をこれから説明します。
消防のCBRNE災害への対応:ホット・ゾーン
3つのゾーンの中で一番危険なエリアです。つまり、区域内には、人体に害のある物質が存在する区域ということです。災害発生直後は、人体に害のある物質の特定は通常不可能なため、レベルAまたはレベルBの化学防護服 を装備します。化学防護服の種別の違いについては、後ほど説明します。ホットゾーンに生身の状態でいればいるほど人体への被害は大きくなります。
そのため、被災者をホット・ゾーンから搬出することが最優先の活動になります。もちろん、医療行為を行うなんて論外です。このような、被害者にとっては一刻を争う事態と言え、救助隊には他の心配もあります。例えば、テロ行為の場合、救助に駆け付けた公的機関を狙った2次攻撃の危険性もあるからです。ひどい話ですよね。しかし、いかに被害を大きなものにするかということがテロ行為の目的、仕方ないとも言えます。
また、レベルAの化学防護服を装備した状態といっても無敵なわけではありません。未知の細菌兵器により、レベルA防護服を侵食され、隊員自身も被災するかもしれません。また、放射線も完全には遮断できません。被ばく量や被爆時間との戦いにもなります。理想としては、一刻も早い医療行為、例えば
・静脈路確保
・アトロピンやPAM剤の筋肉内注射
・気管挿管
などを実施できることがベターなものの、レベルAの化学防護服を着ている状態ではほぼ不可能です。手袋が丈夫に作られており、繊細な作業ができないからです。
消防のCBRNE災害への対応:ウォーム・ゾーン
人体に害のある原因物質があるのがホットゾーンでした。つまり、ウォームゾーンには人体に害のある物質は存在しません。じゃあ何がある区域か。それは、次の4つがある区域です。
ウォームゾーンは、ホットゾーンまでの危険性は高くはないものの、消防隊員が人体に害のある物質に汚染される可能性があるため、レベルC以上の化学防護服の装備が必要です。ウォームゾーンになると、消防隊だけでなく、訓練を受けた医師や看護師による災害派遣医療チームが活動することもあります。
ウォームゾーンでの活動目的は、ホットゾーンから移動してきた被災者の人体に有害な物質の除去です。除染と言った方がわかりやすい人もいるかもしれません。人体に有害な物質があるのは、ホットゾーンとウォームゾーンの中だけとするため、ウォーム・ゾーンの中では、除染措置を徹底的に行う必要があります。
除染措置のことを「デコン」と呼ぶことが多いので覚えておくと便利です。除染を行うデコンエリアは、ホット・ゾーンの外側にあるウォーム・ゾーンのさらに外側で、次のゾーンであるコールドゾーンとの出入り口になります。
消防のCBRNE災害への対応:コールド・ゾーン
ウォームゾーンのさらに外側に設けられる区域です。人体に害のある物質から隔離された区域です。さきほどのウォームゾーンでの説明にもあったとおり、ウォーム・ゾーンとコールド・ゾーンのあいだではデコン(除染)が実施されています。
つまりコールド・ゾーンは、人体に害のある物質は取り除かれた後であるということから、コールドゾーンで対応にあたる消防隊員は、一般的な救急隊としての装備(レベルD)になります。被災者自身はダメージを受けているものの、周囲の人に害を与える物質は取り除かれた後という解釈により、コールドゾーンでは消防隊の現地本部や後方支援部隊などが活動します。また、被災者の症状によっては、災害対応で現場出動したドクターにより医療行為を行うこともあります。
消防のCBRNE災害への対応:各ゾ-ンごとの広さはどうするのか?
これら3つのゾーンは、災害現場、つまりはホットゾーンを中心として円形に設定されることが一般的です。もちろん、崖の下や袋小路になっている区画などであれば例外もあります。それぞれのゾーンの大きさも、人体に害のある物質の種類によって変わってきます。東日本大震災の時の福島原発でも思い出されるように、放射能は風に乗って相当な距離にまで広がることもあります。
逆に、人体に害のある物質が揮発性の低い液体の場合は、用水や川に流れでない限り、風に乗って広がることは考えにくいので、放射能に比べてかなり狭いホットゾーンになります。雨が降っていたら多少は拡散される可能性は高まりますが、その分希釈されて危険性が下がることも考えられます。このあたりはケースバイケースで柔軟な対応が消防隊には求められます。
円形に広がると先ほど述べたものの、風の影響を受けやすい場合は、風下のほうが区域は広く設定することが一般的です。とりあえず、これらのことからはっきりとわかることは、ゾーンの設定具合が災害対応へ大きく影響するということです。現場指揮者は重要な判断を求められます。
【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:CBRNE災害への対応として3つのゾーン体制を維持するためにはゲート・コントロールが重要になってくる
ゲート・コントロールのゲートとは、ウォームゾーン内の除染エリアと、コールド・ゾーンの出入り口のことをさしています。この出入り口は重要です。ここまで読んできた人は納得できるはず。この出入り口の管理、つまりゲートコントロールがしっかりしていないと、人体に害のある物質によって多くの二次被害が発生してしまいます。ゲートコントロールの役割は次の2段階です。
除染前トリアージ (Pre DECON triage)では、ウォームゾーンからコールドゾーンに移動させようとする被害者の除染措置が必要かどうかの判断を行います。痛みなどの症状の有無だけでなく、目に見えない人体に害のある物質、つまり放射能による災害の場合は、放射線検出器による被ばく量の測定も行われます。
ここでデコン(除染)の必要がないと判断されれば、コールドゾーンへの移動となります。逆に、デコン(除染)の必要があると判断されたらCBRNEの種類や状況に合わせ次のような方法で人体に害のある物質を取り除くことになります。
ゲート・コントロール:除染(デコン)の方法①脱衣による除染
人体に害のある、化学物質や生物兵器被害の場合に有効な除染です。夏場と冬場の着衣量により違いが出るものの、脱衣を行うことで70パーセントから90パーセントの、人体に害のある物質のデコンが可能です。
ただし、被災者が女性の場合などはプライバシーへの配慮が重要になってきます。消防本部によっては、プライバシーカーテンを車両に配備していたり、エアーテントを建てて、その中でデコンを行うといった配慮もみられます。
ゲート・コントロール:除染(デコン)の方法②水による除染
脱衣による除染に追加で行う除染です。人体に害のある物質による被害が明らかに衣服だけの場合は、脱衣による除染だけでコールドゾーンへの移動が可能です。
しかし、脱衣を行っても、人体へ直接付着した有害物質が残る場合は、水またはお湯により洗浄を行います。消防隊のCBRNE災害対応資機材セットの中には、給湯ボイラーも含まれています。お湯のほうが有害物質をデコンしやすいということや、冬場であれば体温低下のリスクも避けることができるためです。目に見える有害物質が水流だけで落ちない場合はスポンジなどでこすります。もちろん、そのスポンジは汚染物質として扱います。デコンの際は、体内に吸収されやすい部分、例えば目、鼻、口、耳、陰部、開放性の傷口などを重点的に洗浄することが大切です。
ゲート・コントロール:除染(デコン)の方法③拭き取りによる除染
被災状況によっては、拭き取りによる除染のみとする場合もあります。例えば、被害を受けた部分が体のごく一部分だけであったり、逆に全身の損傷が激しかったりする場合などです。被害を受けた部分が体のごく一部であれば、全身を脱衣して洗浄する時間と手間をかけているよりは、部分的に拭き取りデコンを行ってコールドゾーンへ移動し、病院へと搬送した方がベターです。
全身の損傷が激しい場合も、脱衣や洗浄による体への負担が大きくなります。そのため、人体への有毒物質を拭き取りにより除去できるのであれば、有毒物質の除去を拭き取り除染により最優先に行ってコールドゾーンへ移動し、早急に病院へ搬送すべきです。いづれにせよ、除染前トリアージにおいてどのような除染方法を取るかの判断を行います。
【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:デコン(除染)を行ったからといってもコールドゾーンへ移動できない場合がある
適切なゲートコントロールにより、ウォームゾーンからコールドゾーンへ移動した場合、一刻も早く病院へ搬送したいという考えは当然です。しかし、除染措置を受けた被災者の中でも、生物兵器による被害の場合は、簡単ではありません。というのも、生物兵器による被害は、100パーセントの除染ができないからです。病院への搬送のために、コールドゾーンへ移動する際にも、空間的な隔離措置が必要です。さらには、搬送に従事する救急隊員も、重度の感染対策が必要です。
生物兵器の感染経路にもよりますが、新型コロナウィルスによる被害をイメージしてもらえたらわかりやすいと思います。新型コロナウィルスへの感染も除染できないですよね。それと一緒のことです。直接被災していない人への2次感染の恐れが高いというのは、災害対応にあたる消防隊にとっても非常に厄介な話です。
【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:被災者の数が多い場合は除染後トリアージも行う
被災者の数が少ない場合は、除染前トリアージの結果によりコールドゾーンへ移動し、病院へ搬送を開始します。しかし、被災者の数が多く、病院への搬送が十分にできないときは、除染後トリアージ (Post DECON triage)が必要になります。
一般的なトリアージと同様に被災者の重症度判定を行います。軽症者と死亡者の搬送は控え、病院での治療を優先すべき人から搬送するものです。しかし、CBRNE災害の場合、一般的なトリアージと違う点があります。
それは、社会死要件(首から上がないなど、明らかな死亡)を満たさない限り、黒色(死亡群)に分類しないことです。これは、化学兵器による災害の場合に特に影響します。というのも、化学兵器の中には、神経ガスのような呼吸停止を誘発する性質を持っているものがあります。このような場合、黒色判定(死亡群)を行うのが一般的です。呼吸が停止しているわけですから。
しかし、神経ガスの効果により無理やり呼吸を止められているだけなので、拮抗薬の投与によって劇的に状態が改善することがあります。CBRNE災害のような特殊な災害下では、黒色(死亡群)には注意が必要です。
【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:消防のCBRNE災害への対応部隊
どの消防本部おいても、CBRNE災害といえば救助隊の出番です。もちろん、救助隊だけではマンパワーが不足するため、消防隊や指揮隊なども出動します。特に大きな消防本部(政令市)などではCBRNE災害の専門部隊も存在します。政令市の消防本部は、救助隊の中でも、特別高度救助隊としてCBRNE災害に特化した部隊を備えています。
\消防本部の規模による救助隊の違いはこちらの記事で詳しく説明しています/
特別高度救助隊の中でも有名なのは、横浜市消防局でしょうか。スーパーレンジャーとして機動特殊災害対応隊が存在します。日本最大規模の消防本部である東京消防庁においては、第三方面本部と第九方面本部の消防救助機動部隊(ハイパーレスキュー)がNBC災害専門部隊として存在します。
【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:化学防護服の種別について
ゾーニングの中で説明した化学防護服の種別について説明します。防護力の高さに合わせ、レベルA、レベルB,レベルCといった表現分けをしています。それぞれどのような装備なのか見ていきます。
化学防護服の種別について:レベルA
レベルA防護措置は、全身が化学防護服に包まれ、空気呼吸器にて呼吸ができる状態です。レベルAの化学防護服は陽圧式とされています。陽圧式というのは、化学防護服の中のほうが外よりも圧力が高いということ。圧力が高いということは、化学防護服の中は風船のように膨らんでいます。
なぜ陽圧にする必要があるのかというと、安全対策のひとつだからです。例えば、人体に害のある気体が周囲に充満している現場があるとします。鋭利な突起物で化学防護服破れたとします。このようなとき、化学防護服の中が陽圧であれば、人体に害のある気体は化学防護服の中には侵入できません。もしも陽圧でなければ、人体に害のある気体が、化学防護服の破れた箇所から侵入して消防隊員が受傷してしまいます。
このような事態を防ぐための安全対策として、陽圧式としています。化学防護服の他には、
などを装備します。
化学防護服の種別について:レベルB
レベルB防護措置は、化学防護服を着装し、空気呼吸器又は酸素呼吸器にて呼吸ができる状態です。化学防護服は着るものの、レベルAとは違い、全身が化学防護服に包まれる必要はありません。また、レベルAと違い酸素呼吸器も認められています。酸素は支燃性が非常に高い気体です。エベルAの化学防護服は先ほど説明したように陽圧式です。
酸素が充満した化学防護服はわかりやすく言えば、酸素が詰まった風船のようなもの。つまり、火災危険が非常に高くなってしまうということ。そのためレベルAでは、酸素呼吸器は認められておらず、空気呼吸器しか認められていません。化学防護服の他には、
などを装備します。
化学防護服の種別について:レベルC
レベルC防護措置は、化学防護服を装備し、空気呼吸器、酸素呼吸器又は防毒マスクにて呼吸ができる状態です。全身を包む必要がない化学防護服に、防毒マスクの利用が可能なのがレベルCです。ただ、防毒マスクが利用できるのは条件付きです。その条件は、人体に害のある物質の種類や濃度が把握でき、その有害物質が防毒マスクに装備する吸収缶の条件に合致した場合のみ使用できるというものです。呼吸器を使用しなくてもよいレベルということです。ブーツも化学物質対応ブーツでなくてもよいのがレベルBとの大きな違いです。化学防護服の他には
の装備が必要です。
化学防護服の種別について:レベルD
レベルD防護措置は、一般的な消防隊の状態。つまり、化学剤・生物剤に対して有効な服を着ていない状態です。CBRNE災害での一般的な救助隊のレベルD装備は次のとおりです。
【CBRNE災害】ゾーニングマニュアルを徹底解説:CBRNE災害への備えとして一般市民に必要なこと
「CBRNE災害」への消防の対応はだいたい見えてきました。では、一般市民の立場としては、どのような備えが必要になってくるのでしょうか。「CBRNE災害」が発生した場合、二次被害を防ぐことが、一般市民の立場としては気をつけたいところです。せっかく消防機関が被害拡大を防ぐために努力しても、一般市民の無知な行動で二次被害を引き起こしたら台なしですからね。突発的に起こる一次被害への対応は現実的に無理です。では、二次被害を防ぐためには何ができるのか?それは、次のようなことです。
これらのことを実践するだけで二次災害のリスクは下げることができ、救助隊は一次被害への対応に集中できます。
CBRNE災害|NBC災害との違いとゾーニングマニュアルのまとめ
CBRNE災害について、レポートしました。説明した内容は、次のとおりです。
CBRNE災害への消防の対応の仕組みが理解できたと思います。日本では外国のようにはテロ行為が起きていません。現実的に、ゾーニングを行いレベルAの化学防護服を着るような事案といえば
などです。このようなニュースが流れた時は、現場映像をゾーニングの知識を持って見てみると新たな発見があるかもしれません。
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