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【初出動の失敗から学ぶ】新人消防士が初めての建物火災で大失態

警防業務

こんにちは、TEAM WEBRIDです。
今回の記事は、いつもの制度解説のようなものではありません。
消防士にインタビューしていく中で出会った昔話をレポートします。
今回の小話から学べることは、これから消防士になる人にとっては心に引っかかる部分があると思います。
それではどうぞ。

やる気と実績を兼ね備えた新人消防士

幼いころから消防士になることを夢見ていた少年がいました。
消防士になろうとした理由はシンプル。

「かっこいいから」

ただそれだけ。
見た目もかっこいい。
人気があるし。
名前もかっこいい。
自己紹介するときに、ダサい会社名を言いたくない。

「〇〇〇市消防局に勤務しています・・・・」
「株式会社〇〇〇に勤務しています・・・・」

会社名がダサかったら嫌。
そんな思いから消防士を目指した彼。
中学高校大学と運動部で汗を流し、地元の大学を経て特に苦労することもなく消防本部の採用試験に合格。
勉強はもともと苦手な方ではなかったことも、公務員試験勉強には向いていたようです。

消防士に採用され消防学校へ

消防本部に採用されると、みんなと同じように消防学校へ。
まずは6か月間。
初任教育である「初任科」において消防士としての基礎を学びます。
同じ消防本部の同期は、15人。
彼が採用された消防本部は、独自で消防学校は運営していない規模の消防本部だったため、県が運営する消防学校へ。

\消防学校の仕組みについては詳しく知りたい方はこちらの記事/

県の消防学校には、県下の約20の消防本部から、6か月の初任科を共に過ごす仲間が集まりました。
初任科の同期は総勢80名です。
20名程度の採用者がいる消防本部があれば、3名しか採用がない消防本部もあったりと、消防本部の規模により同じ消防本部の同期の数はバラバラです。
あまりにも小さな消防本部だと、採用者がいないという消防本部もあります。
消防学校では、

  • 運動能力
  • 知識能力
  • 生活態度
  • 素行

あらゆる要素を総合的に判断して、順位がつけられます。
さらに、上位1割の学生は、優等生という称号が与えられ、賞状と記念品が授与されます。
つまり、この場合は、上位8名が優等生として選ばれるということになります。
主人公の彼は、見事6位に入賞し、優等生の称号をゲットしました。

消防学校を卒業し消防署での現場生活スタート

いざ、消防署での現場生活が始まると、いつ火災指令が鳴っても、あたりまえのごとく出動します。
いったん火災現場に出動すれば、

「まだ新人なので・・・」

なんて泣き言は言っている暇はありません。
野次馬の一般市民から見れば、新人も先輩も見分けはつきませんからね。
この考え方は、消防学校で教わります。

つまり、何が言いたいかというと、消防署での勤務が始まるイコールいつでも火災現場に行く必要があるということ。
いつでも火災現場に行く必要があるということは、先輩たちと同じように現場活動ができるだけの装備が必要ということ。

そのためには、忘れものをせずに出動するために、準備が必要ということになります。
防火服は防火服置き場のロッカーに置いていることが一般的です。
そのため、新人消防士は火災指令が入ると、出動準備のためにまっさきに防火服置き場に向かいます。
身につける主なものは次のとおり。

  • 防火靴
  • 防火ズボン
  • 防火服
  • 面体
  • 防火帽

空気呼吸器は、消防車両の座席の後ろに積んであるので、防火服置き場での着装は不要です。
面体も、持っていくだけで、まだ顔には着装しません。

つまりこれらのものを、忘れずに、きちんと身につけて、先輩たちに遅れを取らないようにとりあえず消防車に乗り込みことが肝心です。
主人公の彼も、忘れ物がないように、ロッカーの入念な準備を怠りません。

初めての火災出動は突然にやって来る

いつ起こるかわからないのが火災なので、当然ですが、初勤務から数日、その瞬間は突然やってきました。

その日ポンプ隊だった彼は、昼食後に事務室で事務作業をしていました。
すると、突然の火災指令が鳴り響きます。
しかし、周りの先輩たちの動きに変化がありません。
どうやら、隣の消防署の管轄で起きた建物火災のようで、彼がいる消防署からの出動はないようです。

後から聞いた話だと、火災指令の際に、管轄内(出動する)か管轄外(出動しない)かによって、微妙に指令の警報音が違うようです。
当時、新人であった彼には知る由もありませんでしたが。
出動が必要な指令か、必要でない指令かによって、最初の警報音を変えているという消防本部はよくある話です。

彼は、隣の消防署の管轄の火災だとしても、ソワソワします。
慣れていないから当然です。

「隣の消防署に配属になった同期は、今日は勤務日だろうか?」
「初めての現場へ行っているのかな?」
「早く火災現場を経験しないと、同期のみんなに取り残された気分だ」

さまざまなことを考えます。
火災のことが気になり、火災情報や現場の無線情報がわかる通信室を先輩たちとのぞいてみます。
どうやらボヤなどではなく、炎上火災です。
しっかり燃えているようです。
周りの先輩から一言。

先輩「おー、住宅密集地でよく燃えてるね、お前行くんじゃない?」

「え?」

と、不思議に思ったその瞬間、火災指令が鳴り響きます。

火災指令「第2出動!!」

火災の規模が大きく、第1出動の部隊だけでは消防力が足りない時、部隊を増強するために第2出動をかけます。
管轄外の消防署からも応援が出動するようになります。

隣の消防署の火災だったため、彼の属するポンプ隊が第2出動指令により出動することになりました。

出動準備を整えて万全の状態でいざ現場へ

彼は、自分のポンプ隊が出動するようになったことを理解するなり、すぐに防火服置き場に向かいました。
こころの中では、

「忘れ物だけは絶対しないように!」

と考えています。

わざと脱ぎかけにした、防火靴が付いたままの状態のズボンに足を通します。
防火靴のチャックをあげます。
ズボンを履き、サスペンダーをかけます。
防火服の上着を羽織り、前面のチャックをあげます。
防火用ヘルメットをかぶり、顎ひもを締めます。
面体を入れた袋と、現場から帰るときにかぶる用のアポロキャップを持ち、消防車へ走ります。
新人が座るのは後部座席の左端です。
全員揃い、いざ出動です。

車が動き出すと同時に、隊長から指示が出ます。

「炎上の建物火災だから呼吸器は必須だ、呼吸器を背負っていつでも面体を着装できる準備をしとけ!」

すべての火災において、いつも空気呼吸器を装着するわけではありません。
明らかに空気呼吸器が不要な現場では、空気呼吸器を背負わないこともあります。

しかし、今回に限っては迷う必要がなく空気呼吸器が必要なわけです。
車両の座席の後ろに積載されている空気呼吸器を背負い、バンドを締めます。
消防学校や訓練で何度も練習してきました。
何も問題なく、空気呼吸器を完璧に背負います。

面体を袋から出し、首にストラップをかけます。
面体をストラップの定位置にぶら下げます。
空気呼吸器から伸びたホースと面体を接続します。
ここまでくれば完璧です。
小隊長から面体着装の指示があれば、いつでも空気呼吸器を使用できます。

現場到着まではまだ10分ほどかかりそうです。

初出動の途中でその瞬間は突然やってきた

サイレンを鳴らしながら緊急走行するポンプ車の中で、ふとした異変に気付きます。

「何かおかしいぞ。」

彼を違和感が襲います。

「いつもと何かが違う。」

違和感があるものの、その違和感を信じようとしない自信もあります。
なぜなら、ここまで完璧に準備できているという自負があるから。

  • 忘れ物もないはず
  • 装備も完璧なはず
  • 指示された準備も完了したはず

でも何かおかしい。
全身を確認します。

  • 防火靴を履いている
  • 防火服のズボンを履いている
  • 防火服の上着を着ている
  • 火災現場用のヘルメットをかぶっている
  • 空気呼吸器を背負っている
  • 面体も首からぶら下げている

「あ!!!!」

やっと彼は気づきます。

「手袋がない!!!」

火災現場では、安全管理のために手袋を着用することは常識の中の常識。

  • 輻射熱や熱湯で火傷をするかもしれません
  • 割れたガラスで切るかもしれません

素手のまま火災現場で活動している消防士なんて世界中のどこを探してもいるわけがない。

とっさに、防火服の上着についているポケットを探します。
しかし、手袋は入っていません。
ゾッとします。

いろいろなことを考えます。

  • 素手のまま現場活動していいのか?
  • 手袋がないからという理由で現場についても車内から出してもらえないのか?
  • 素手のまま活動して怪我でもしたら相当なペナルティが待っているのか?

大きく動揺します。

動揺する新人消防士への救世主は突然現れた

その時、隣に座っていた50歳代のベテラン消防士が異変に気付き声をかけてくれました。

先輩「どうした?」

「手袋を忘れました。」

先輩「これ使え!」

先輩の防火衣のポケットからスッと手袋が出てきました。
彼はとっさに先輩の手を見ました。
差し出してくれた手袋とは別の手袋をしっかりと装着しています。

そうです、自分が使う手袋とは別に、予備の手袋を防火服のポケットに入れていたのです。

「ありがとうございます!」

新人消防士はこうして、消防人生初の建物火災の現場に向かったのでした。

新人消防士が失敗から学んだこと

火災が鎮火し、他署からの応援部隊は引き揚げることになりました。
借りた手袋のおかげで、彼は怪我をすることもなく、乗ってきたポンプ車に乗り込みます。
手袋を貸してくれた先輩に、お礼を言いました。

「洗って乾かしてからお返しします、ありがとうございました。」

消防署に帰ると、すぐ次の出動指令が入っても出動できるように、車両を整備します。
出動準備が整うと、次はやっと自分の装備の片づけです。
防火服置き場に戻り、自分のロッカーを見てみると、忘れていかれた手袋が横たわっています。
焦りから来る見落としだったのでしょう。

彼はこのことがあってからは、常に防火服の上着のポケットには予備の手袋を入れるようになりました。
もしかしたら、手袋を貸してくれた先輩も、若かりし頃に同じ失敗をしていたかもしれませんね。

【初出動の失敗から学ぶ】新人消防士が初めての建物火災で大失態のまとめ

“新人消防士が起こした失敗”にまつわるエピソードについてレポートしました。
このことから学べることは次のとおり。

  • 人は焦る(冷静さを失う)と普段見えているものが見えなくなる
  • 予備が用意できるものは準備しておく

これから消防士になろうとしている人で、この記事を読んだ人は、消防士になった後の初出動で手袋だけは忘れることはないはずです。
また、消防士でなくても、上記の2点は社会で生きていく中できっと役立つはずです。
大事な場面でこそ、この2点は頭の片隅に常に置いておきましょう。

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